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映画『わたしは最悪』感想 ネガかポジか、それが問題だ

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映画『わたしは最悪』感想 ネガかポジか、それが問題だ

 

#『何者』系 #80点 #批評家受け #ネタバレ #映画感想

映画『私は最悪』の3枚の看板(ポイント・背景・あらすじ)

1.第94回アカデミー賞脚本賞、国際長編映画賞ノミネート。ポール・トーマス・アンダーソン(『ブギーナイツ』『ゼア・ウィルビー・ブラッド』)は2021年視聴した中で最高の映画と絶賛。

2.監督は『テルマ』(2017)のデンマーク人監督(ノルウェーで活躍)ヨアキム・トリアー。ノルウェーを舞台に、ノルウェー・デンマーク・フランス・スウェーデンの合作。

3.結婚相手がいながら、別の男性にひかれ、「私は最悪」な思いに時としてとらわれるアラサー女性、ユリヤ(レナーテ・レインスヴェ)の20代~30代前半を全13章で、場面を切り取るように描く。上映時間2時間15分。ユリヤの夫で人気コミック作家のアクセルを演じるのは、開業医、作家など多彩な顔を持つアンデルシュ・ダニエルセン・リー。ユリアが引かれるパン屋の男アイヴィンを演じるのはノルウェーの人気俳優ヘルベルト・ノルドルム。

【雑感】どうせえっちゅーねん

嫁はんとフォーラム仙台で見た。
リコリス・ピザ』を見た時と同じような感想になった。
何か一言では言えないものを表現しようとしているが、それがゆえに見ていて「どうせえっちゅーねん」といいたくなるような時間も多い。

複数監督のインタビューを読んだ結果、根底にあるのは「何者かになりたい」「それには時間が足りない」的な『何者』とかSNSとか、現代の日本でもおなじみのテーマなのだが、それをこんな迂遠なやり方で表現する必要があるだろうか。

……あるんだろうなあ。
それがわからないから、俺は普通に自己啓発本とか読んで留飲を下げたりしちゃうのだ。
即効性のあるビタミン剤でかまいやしない。

本作は、大人になることについての映画だが、まだ大人になりきれていないと感じている大人のための映画でもある。ユリヤの20代半ばから30代初めにかけての数年間を、本のような構成にすることで、彼女の生き方を網羅できると考えた。小説風の形式は、ユリヤが本に描かれるような、ドラマティックな運命を切望していることも反映している。
引用元:脚本を小説の章仕立てにした理由(私は最悪公式サイト)

と、監督はコメント。

この「自分の人生を小説みたいに考えちゃう感覚」は確かにあるなと思う。

だが、それを失うことがはたして 大人になることだろうか?

この前嫁はんから、「中島らもが既存の『伝記』をおちょくるために市井の一般人のつまらない人生を伝記として出版するというアイディアを思い付き、出入りの豆腐屋などに取材を敢行したところ、その人生があまりにドラマチックで、‟つまらない『伝記』を書くという計画はとん挫した」という逸話を聴いた。

人生はストーリー♪

なんて能天気なメロディが浮かぶが、案外それは真実である。

【根幹】「私は最悪」のネガ/ポジ

 

また、ノルウェーかつ女性という属性のどちらも持っていないとやはり十分にキャッチできる共感やメッセージは少ないのではないか。
公式サイトの著名人のコメントを見ても「オスロの空がきれい…」みたいな意見が複数見られたが、そんなんどうでもええんじゃ

一例(公式サイト「コメント」よりキャプチャ)※大九監督の映画自体は好き。『勝手に震えてろ』の感想


もっと「私は最悪」ということに向き合ってほしい。
はっきり言って性格含め最悪というほどではなく、才能も有り金に困っている様子はなく男にも困らずジムにも通っている主人公。自らも気持ちで考えるタイプと自称するそいつが私は最悪と称するときの空がもしすがすがしくきれいに見えたならば「私は最悪」の意味はアッパーなものとなり、「私は最悪(でもやったたったで!パンドラの箱あけたったで!フー!)」というものになる。

わたしは最悪。 の映画情報 - Yahoo!映画

ご覧の通り、ポスター(時が止まった世界<空想>でアイヴァンに会いに行っている)の「わたしは最悪」はめちゃくちゃポジ(アッパー)である


やっぱりどうしたってそういう開き直りの主人公に見えたし、それを見て「最悪ー!」と思う観客の俺。
勝手に人様のパーティに上がり込むような人種の気持ちは理解できない

急遽授かった子どもを一度は育てようと考えていたものの流産してしまった主人公。
そのとき、ホッとしたのか、あるいは落ち込んだのか、その割合はいくらだったのか。そのときの「私は最悪」はアッパーだったのかダウナーだったのか。
そういう面に思いをはせる映画。

【まとめ】ミレニアム世代の贅沢病

日本でも『明け方の若者たち』とか、こういうどうしようもないモラトリアム系作品って一定のジャンルとして近年もてはやされている感がある。

バブル時代を直接には経験していないものの、その残滓くらいは味わった僕たちミレニアム世代。

甘えて生きることができるが故の、平坦な憂鬱が旧先進国を覆っている。

ただ、だんだんと「それってただの贅沢病では?」という視点が勢力を増しており、其れって結構正しかったりもするもんだからこういう映画を見えて、共感できるのも今の内じゃないか。

呆れている場合でもない。「わたしは最悪」を今のうちに楽しもう。ああ、贅沢な時代に生まれて良かった。