『イングロリアス・バスターズ』感想──87点 シーン!シーン!シーン!
2009年公開、クエンティン・タランティーノ監督第6作目、『イングロリアス・バスターズ』を見た。
ドイツ国防軍占領下のフランスを舞台に、“ナチを恐怖で縮み上がらせる”バスターズの秘密作戦(ヒットラー・ゲッペルスなどナチ中枢が集う映画『国家の誇り』のプレミア上映会の会場を焼き尽くす)の遂行の顛末を、痛快に描く。
5幕構成となっており、第一章でナチ将校ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)によるユダヤ人摘発の手口、第二章でアルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)率いるバスターズによるナチ尋問、第三章でランダ大佐の手から辛くも逃れたショシャナ(メラニー・ロラン)が『国家の誇り』のモデル兼主演のフレデリック一等兵(ダニエル・ブリュール)に惚れられ経営する映画館でプレミア上映を行うようになるまでの顛末を、第四章で、ドイツにおける国民的女優かつアメリカ側のスパイ、ハマーシュマルク(ダイアン・クルーガー)とのバーにおける邂逅を、第五章でバスターズ・ショシャナそれぞれによる殲滅作戦の遂行が描かれている。
目次
全体の感想
シーン、シーン、シーンで話をつないでいくんだなあタランティーノはと思った。いやまあ、映画は全部そうなんだし、タラちゃんにそういう傾向があることはみんな知ってんだろうけど。
そう思いつつ関連情報をあさっていたら、どうやら1998年から本作の脚本は温められており、その間に長大化。二部作化・テレビシリーズとして放映するなども検討された末、リュックベッソンの「君は、私を映画館に向かわせる数少ない監督の一人なのに、次の映画まで5年はお預けだなんてがっかり(※)」という言葉に触発されて一本の映画として完成されたらしい。
※…Wikipediaより引用
すげー長い脚本を一本に収めて良いシーンだけつないだら面白い映画になるんじゃないかなあと映画ファンなら一度は夢想したことがあると思うのだが、その実践がこの映画というわけだ。
なるほど、そのメリット・デメリットの両方がはっきりと出ていると思う。
その心は──
シーン単位では非常に面白い。
全体を貫くドラマ性は弱い。
2007年に公開された『デス・プルーフ in グラインドハウス』だってシーンごとのつながりが不明瞭で、一章と二章は殺人鬼だけでつながっているようなものだった。こんなシーンってあるよね映画にはというサンプリング的手法がタランティーノの持ち味である以上それは、脚本の長さとか関係なくそうなるべくしてなったものかもしれないけど。
でも、俺はあえて短くしてぎゅっと詰め込んだこと自体は間違いないと思う。
シーン単位では全部面白かったからね。
ただ、シーンはすべて面白い。
意味がなさそで含蓄ありそな会話がなぜか面白い、という持ち味がストーリー全体に貢献するというよりも、部分最適で構成された各章ごとのおもしろさに発展した感じかなと思う。
スカッとしない映画じゃないか?
スカッとする映画みたいな説明がなされてるけどそういう軸ではあんまし評価していない。
分かりやすく活躍して敵を倒すのではなく、なんか荒くれていてかっこいいブラピが多言語を話せて狡猾でナチ軍服が似合って格上のラング大佐や、哀れっぽく命乞いするナチ兵をちびり上がらせて映画の主役パワーで始末する映画。
バスターズは残忍で特攻隊的でそれほど頭もよくなさそうなのでヒーローとして憧れないし、かといってバカだけど共感できる俺たちの感情移入先だともならない。
「おい、お前の仲間がどこにひそんで銃を持っているのか吐け」
しかし、年老いた将校は口をつぐんだまま。
そこに、バットを持った筋骨隆々の大男が。
「答えないとお前は全身の骨を砕かれることになるぜ」
しかし、老兵は口をつぐんだまま。
「そうか、わかった。えらいじゃねえか」
──バットは無慈悲に振るわれ、老兵は全身の骨を砕かれて死ぬ。
細かい文言は違うが、だいたい第二章においてバスターズ側からこのような暴力が振るわれ、ナチはボコられた。
そもそも悪人を残虐にぶっ殺すタイプの映画(なんていうんだったけな・・・)がサンプリング元の一つとしてある以上、これもタランティーノファンからすれば自明のものなんだと思うけど、完全にやってることは悪者のそれである。
レイン中尉は女にだって拷問(それも誤解から)するし、ラング大佐との約束を反故にするし、仲間が死んでも全然気にしない。
人非人のたぐいである。
ただ、それがあえてノワール的な演出を狙ったものでもなく、“どちらにも正義がある”という大層なメッセージがあるわけでもなく単に「だってこれ娯楽映画じゃん。主役が悪者をぶっ殺すんだよ!」というからっとした感覚から来ているとビンビンに感じられるのがタラちゃん節なんだなあと思う。
イーストウッドはもう少し硬質だと思う。
「結果は正しくてもやり方が悪い」なんて平和ボケな言葉だが、現代の倫理観を背景に色々見てしまう俺は「スカッと」はできなかった。
この映画を見てスカッとしにユダヤ人が押し寄せてヒットしたというのは本当だろうか・・・と疑っている。
全員が偏見を持って「憎き相手を殲滅せん」と動いていて、善人や子どもの入る余地のない映画である。
そのことは酒場で子供が生まれたばかりの軍曹が打ち殺されたり、天狗になりつつも大量殺人の罪の重荷を自覚してそうなフレデリック一等兵があっさり打ち殺されたり、ナチからアメリカへ寝返ったスティグリッツが特に見せ場なく明らかにスパイとわかる挙動をしてバーで死んでしまったり、酒場の主人が死んだりウエイトレスが死んだりすることからも明らかである。
戦争なんてそんなものだよ。
- 発売日: 2013/11/26
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ジャングル系のパッションあふれるツッコミ。
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