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映画『神は見返りを求める』ネタバレ感想 恋愛映画と解釈すると評価が変わる

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映画『神は見返りを求める』ネタバレ感想 恋愛映画と解釈すると評価が変わる

『神は見返りを求める』の3枚の看板

1.森田剛主演、古谷実原作『ヒメアノ~ル』で話題を呼び、『いとしのアイリーン』『Blue』『空白』など話題作を世に送り出している吉田恵輔監督最新作。

2.『愛がなんだ』で恋愛狂女として高い演技力を見せ、現在TVドラマやCMでも演技を目にすることの多い岸井ゆきのと、『ヒメアノ~ル』でも主人公の職場の同僚安藤さんとして好演を見せたムロツヨシがメインの登場人物として出演。若葉竜也など若手実力派も参加。

3.底辺YouTuberゆりちゃん(岸井ゆきの)とそれを応援するお人好しでモテない男、田母神(ムロツヨシ)の物語。YouTuberに対する悪意、承認欲求や情けない性欲など、人間の情けなさ・汚さ(とその中の一瞬のきらめき)を描くことに定評がある吉田監督の悪意が詰め込まれている。

【やや否定的】前半はよかったが、途中から化学調味料入れすぎ

映画界のYouTuberを蔑視する空気に、やはり吉田恵輔監督も飲まれてしまったのかな、あるいは製作委員会方式によりより「バズる」ことが必要になり、人物の掘り下げよりも過激なストーリー展開に尺が割かれてしまったのかなと思った。

正直言って上記のサムネのあおり方から言ってあまり好きではない。

「恩を仇で返す女」というより、「恩を返さない女」という方が正確だと思う。

ゆりちゃんが「恩を返さない(YouTubeを最初から支えたのにお返ししない)」→田母神が「攻撃する(分け前を求めたり暴露系YouTuber「God.T」として攻撃する)」→ゆりちゃんが「仇討ちする(YouTubeであげつらう)」なのだ。

攻撃に対して仇を返していて、恩には何も返していないのである。

「何も返さないこと自体が仇だ」というのはさすがに厚かましいんじゃないだろうか。

引用元:https://youtu.be/TEr2sJMLcYM

俺はおじさんになりゆく人間なので、意識的に「善良なおじさんには見返りをくれよ~」みたいなおじさんの甘えに厳しくある必要があると思っている。

誰からも好かれないなら、せめて好かれたいと願うようなみっともないことはしないで、カッコつけを貫こうぜと思っている。

しかし、その‟かっこつけられない”こと自体が恋である、という解釈で見ればこの映画を恋愛映画と見た時の筋は通るのだ。

そして、この映画はたぶん「恋愛映画」なのだ。

だからこの批判は、それに気づけなかった所見時の俺の感想。

【プラス要素】吉田監督の尖りっぷりは健在

俺は吉田恵輔監督が好きだ。
『いとしのアイリーン』でやられ、『空白』『犬猿』『ヒメアノ~ル』『麦子さんと』どれもよかった。
考え方というか、スタンスが似ていると感じる。今回も人を食った冒頭。『犬猿』から引き続く、「あれ?映画館が何かミスったのか?」と焦らされる掴み。例えばコロンビア映画の冒頭で出てくる自由の女神やディズニーのシンデレラ城に施されているような、企業ロゴからの、映画という媒体を生かした掴みがなぜできないのか? みんながやらないなら俺がやってやる。という自信と反骨精神が伺える。

そして視聴者に対する悪意。のぞき見的快楽を求めて裏窓からのぞいているんだろ?わかってんだぞと怒っているような、女性の胸元へのアングル、服を脱ぐ岸井ゆきのの取り方。

いささか男性=自分の視点に引き寄せすぎで独りよがりかもしれないが、俺はよくわかる。

空白ごっこの「かみさま」を流しながら、『君の名は』的な音楽×エモ演出への悪意の感じられるPV的シークエンスなど、正直スタンスだけでエモさとか時間の流れはとらえきれていない(それが後半にもマイナスの影響を与えている)が、その挑戦的な感じがやはりすきだ。

まとめて言うと、スタンスが好きだ。

見返りを求めないよ、といいながら奉仕するムロツヨシとそれに甘えるゆきのの関係。犬猿におけるニッチェ江上と窪田正孝の関係の男女逆転バージョンであり、その微妙な関係性を描くのがうまいうまい。

犬猿の感想はこちら

【否定ポイント】2人の関係がゆりちゃんの成功により崩れていくという予想の付く展開の先がどうにも期待外れだった。

本作チラシのボディコピーは「心温かまりづらいラブストーリー♡」というフレーズが入っている。この「ラブストーリー」、必須だったのだろうか。はっきり言って裏切られてからのムロツヨシ=田母神は逆恨み過ぎ、同情できなすぎ。岸井ゆきの=ゆりちゃんの成功は村上アレンのおかげであって田母神は自分でも言っていたが本当にただの通過点でしかない。そして見返りはいらないという発言。あの時点で、もうあんたラブストーリーの登場人物にはなれない。『いとしのアイリーン』の岩男にはあった一部の利がここにはない。

この部分について、「恋愛映画」という視点から見ればだいぶ的外れかもしれないと今は思っている。

というのも、この映画について嫁はんと話したのだ。

嫁はん曰く、恋愛は「承認欲求と性欲と相手への執着のこんがらがった汚い感情を含む、てかそれが本当の恋愛だと思ってる」。

すなわち、俺が「ただのストーカーじゃん」と批判した田母神の勝手な好意(とその裏返しの攻撃)こそ、まさに「恋愛感情」と解釈することもできるのだ。

そしてそれは追われる側であるゆりちゃんの側にも影響を及ぼす。

どんなに社会的に成功しようが、金を持とうが、一人の人間にどうしようもなく求められることへの渇望を簡単に捨て去れるものではないらしい。

サイン会に赴き、「もう来ないよ」と話して立ち去った田母神をゆりちゃんは追いかける。そしてそのあと、二人の思い出のパーカー(ダサい)を着てYouTubeの撮影に出たりして(燃えてしまうのだが……)ちょっとデレる。

それはなぜか。

俺は「リアリティがない!おじさんにあまい。ペッペ!」と切り捨てたが、「自分をどうしようもなく求める田母神をキープしておきたい」という心理がゆりちゃんの中で働いたという解釈は成り立つ。ていうか、YouTuberのなかで居心地悪そうにしたことを踏まえると、その方が納得がいく。

俺は他人のことなどどうでもいいと思っていて、究極的には自分しか好きじゃない。

だから、ゆりちゃんの心情、田母神の心情を雑にしか受け止めることができなかったのだ。

吉田恵輔監督は「(汚い心情も含めた)恋愛感情」がわかるんだな。

「似てる」とかいったけど、僕とは違いました。

自撮り棒を向けあう田母神とゆりちゃん。スマホのカメラは攻撃性の象徴であり、相手への執着の象徴でもある。引用元:https://youtu.be/TEr2sJMLcYM

そして、増長したゆりちゃんが田母神を完全に切らないのもおかしい。怒り口調の電話がかかってきた時点でファミレスに行く理由はない。GOd.Tが出てきたときはなるほどガーシーをこうやって取り入れたか?それともガーシーより早いのか?と感心したが、再生数を観ると6000回程度どまり。50万人を超えるゆりちゃんチャンネルで取り上げる理由がない。
「それ面白いの?」と散々詰めていた村上アランよ。まず、ゆりちゃんがGod.Tについて取り上げようと話した時点で説教しろ。

この指摘についても、ゆりちゃんの側にも田母神に対するある種の執着があるとすれば、ぎりぎり成り立つ。それにしても、村上アランは止めるべきだったと思うが。

YouTuberに対する悪意について

そして、YouTuberの描き方。俺もコムドットや東海オンエアを筆頭に陽キャがそのノリをインターネットで拡散させて馬鹿を踊らせる様子は嫌いだし、そもそも見ていないので、勝手に忌避している(下から差別している)。だけど、それを作品に込めるなら相手の結果やそこに至る過程も説得力をもって描かないと。YouTuber監修がついていたが、それでいいのか。動画のクオリティは申し分ないが、そもそもの外面があんなに(大事故を起こしたのに病院で不用意に撮影を始めるほど)空っぽとは考え難いし、ビジネスでやってて稼いでるんだからそれなりの安全管理体制もあるだろ。

本当のところ、俺よりもずっと吉田監督やそのスタッフの方がYouTuber業界に近く調査もしているのだから、この指摘は的外れの可能性も高い。

ほんとに安全管理体制が杜撰なYouTuberの話を聞いたのかも。

このお二人のダサいYouTuber演技はすごくよかったです。引用元:https://youtu.be/TEr2sJMLcYM

やけどについては、数カ月前に起こったアート系の学生が焼死した事件をヒントにしたのだと思うけれど。

鉄板切る作業中に火花が引火 芸術大学の女子学生やけどで死亡 | 事故 | NHKニュース https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211231/k10013410381000.html

せめてものエクスキューズとしてか「映画や音楽みたいに残らないかもしれないけど一瞬の面白いものを作るのって価値がないんですか?」みたいなセリフを話させていたけど、これ自体傲慢さが透けて見える。映画や音楽だって文化として100年ぐらいしか続いていないし、個々の作品で言えばほとんどは1年のこらない。本質的には変わらない文化でしかないと俺は思う。
映画党は映画の味方だからこそ、「敵」をリスペクトをもって描き、その中で価値を定義しなければならないのではないか。

これに関してはあまり意見が変わらない。

あんなに簡単にだれでも病院に入れるのか。

小さなツッコミどころです。

まとめ

俺は浮ついた世の中や成功者を馬鹿にしたエンタメを楽しみたいという底の浅い悪意を持っているが、その底の浅さをごまかしてくれないような、自覚のない映画を喜んでみてると思われるのは嫌だ。

でも、ここまで長文で意見を書くくらいどこか気持ちの震えるところがあったのだなと思う。

特に前半はイタいイタいと内臓がかゆかったもの。

承認欲求の部分については理解できるけど、恋愛の部分については理解が追い付いていないのが、自分という人間の特性の限界なのだろうなと思う。

再生回数はイタいが、内容は面白いと思っている。底辺YouTUberのジャングル系ちゃんです。