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映画『犬王』ネタバレ感想──湯浅作品の中ではベストに近い

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映画『犬王』ネタバレ感想──湯浅作品の中ではベストに近い

TOHOシネマズ仙台、第2スクリーン19:15-21:00の回にて、アニメ映画『犬王』を観た。

『犬王』の3枚の看板

1.平家物語の外伝として作家古川日出男が執筆した『平家物語 犬王の巻』(2021、河出書房新社)が下敷き

2.『デビルマン クライベイビー』『夜明け告げるルーの歌』『ピンポン(TVアニメ)』『劇場版クレヨンしんちゃんシリーズ』(設定デザイン・絵コンテ・原画)などで知られる湯浅正明監督

3.バンド女王蜂のボーカルアヴちゃんが主人公犬王の声優を担当し、劇中曲のプロダクションにも参加

どちらかといえばこちらのライブシーンを見た方が魅力が伝わりやすいはず

前提:俺と湯浅監督

湯浅正明監督は表現力が天才でスト―リーテリングにかなり難ありという印象。これまでに見たのは『マインドゲーム』『夜明けつげるルーの唄』『きみと、波にのれたら』『夜は短し歩けよ乙女』。
要するに、劇場用暗目は全部見ていて、テレビシリーズは一切見ていない。
このなかで一番好きだったのは多分最もオーセンティックな『きみと、波にのれたら』だった。

『きみと、波にのれたら』はGENERATIONSの声優&楽曲参加とか、アニメクラスタと相性の良くなさそうなマッシュアップなども関係して、湯浅作品の中でも地味な印象だが、その普通さとか、アニメとかアートといったセーフ領域がいい意味で一般視聴者向けに破られた解放感が非常に好ましかった。

プラス評価:ケレン味とストーリーのバランスが意外とgood!

『犬王』はいかにもケレン味!という宣伝手法、テーマ、キャスティングでどうなることやらと期待半分不安半分だったのだけど、結果として原作付き(+野木亜希子脚本)であったことで話が取っ散らからずにでもやりたいことはできているバランスのいい作品だったのが、意外だった。

だが、やはり「ストーリー」面は弱い

やはり湯浅監督の興味はストーリーに重きが置かれておらず、明らかにライブシーンでやりたいことをやることに力がそそがれていたので、「お話」として圧倒されるような要素はない。
犬王、ともいちともに、アウトサイダーかつ、その心中についてはあまり詳しく描かれないので俺たち観客が気持ちを重ねられる要素も少ない。
結果として、そこそこいいバンドが出てきたが諸々の事情で解散してしまった──というアカシック解散時のような視聴後感であった。
ビターな結末は、いさぎよくて、好きだった。ただ、もうちょっとストーリーを見せてくれないと、現代の観客は熱狂しないよなあと思う。

アカシックに限らず、そういうことは少なからずある。

もっというと、FEEDWITが俺にとってそうであった。

異形

何がいいって最初の犬王の異形─片手のみが長く、目はおちょなんさんの用にちぐはぐな位置にあり、鱗が体を覆っている──はよかった。『わたしは真悟』のSHINGOのように、対になるはずの部位の一方が長大であるという造形は一目でインパクトがあり、それと舞との組み合わせが湯浅演出と見るからに相性がよい。それが話が進むにつれ呪いが解け、犬王はいわゆる人間の普通の造形へと「戻って」いく。異形のものが最も存在感を発揮するという大逆転のテーマに反するではないか、とずっと気になっていたのだが、最終的にああいう結末になるのなら、それもまた織り込み済みで、犬王が「失って」行く過程でもあったのかと腑には落ちる。

しかし、そのことについて犬王自身がどう感じていたのかについてはよくわからない。

最終的に仲間のためにまさに幕府の犬となった犬王だが、最も自由で異形の存在であったはずである。その反骨心がそっくりともいちに移譲されてしまって、犬王は人間になってしまったという経緯があるのかもしれないが、そこがあまり描かれていないのでよくわからない。最後に再び異形の姿で登場するのは犬王の魂はやはり異形の中にあったということだと思うのだが、足利義明の前でのしかめっ面からはそこまでの葛藤は読み取れないような。
呪いの面の描写などと比べて、犬王の心情周りがスキップされ過ぎではないかと思った。

引用元:https://youtu.be/1aWljU6ZDKU?t=22(異形の犬王)

このあたりの心情描写が薄く(あるいは人間らしくなく)あった出来事をただ描くというのは昔話っぽくて、作品の舞台や主題とはマッチしている。

「おちょなんさん メイク」でググってはならない。

肝心のライブシーンについて

ドラムとかエレキギターとか、しまいにピアノとか。ぜったいにこの音はならないだろうという音があの構成からかき鳴らされるのはやはり気になる。それにロックバンドを琵琶法師がやったらオオウケして面白いんじゃね?という発想はやはり少し安っぽい。琵琶法師のプライドは西洋由来のライブカルチャーにあんなにあっさり駆逐されるのか? でも、それ(琵琶法師のライブシーンを描きたい!)が発想の起点にあったと思うので、それを否定するのはすべての否定にもつながってしまう気も……。

「観客にも参加を求めるんだよ!!」とモブが何度も連呼していたのはシュールであった。

あれだけ斬新な取り組みをしてそれが人気を得ているなら、絶対世阿弥観阿弥は取り入れるだろというのも気になった。

歴史に名を残すというのは並大抵ではない。

まとめ:「いつもの湯浅作品」の中ではバランス◎

もちろん見たことない映像があり、海外に自慢したい日本のクール感みたいなのも感じられて、よかった。表現にも、前半の雨に濡れるともなの顔の濡れの表現や、盲の視界でのボヤっとした世界のとらえ方など、新しい、あるいは意味のある部分があった。
そのうえで「ストーリー」がもうちょっと補強されればなー。