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『ミッドサマー』感想 ──じらされる工場見学 ※ネタバレ

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『ミッドサマー』感想 ──じらされる工場見学 ※ネタバレ

見た直後の感想

おもろいし唯一無二だけど長い!

方々で言われているとおりホラーではなかった。かといって恋愛セラピー映画とは感じなかった。やっぱりモンド映画に近いと思う。
架空部族ドキュメンタリー。

アリ・アスターのユニークなところは怪奇現象やカルトに実際に崇高さを見出している視点で撮影しているところ。”あっち側”の視点でまるで記録映像ですよと言わんばかりにカメラは温度なく事のいきさつを残している。

だから見終わった後の観客はディスカバリーチャンネルでウミガメの出産を見た後のようなさっぱりとした爽快感を覚えることになるのだ。

しかし、それは、ストーリーが希薄になるということでもある。記録映像とストーリーは相性が悪い

本作が記録だとすると儀式を目の当たりにして声を荒げるとか、小便を大切な木に浴びせかけるとか、書物を盗もうとするとか、何らかの集団におけるタブーらしきものを犯した人から贄にされるのはおかしい。出来過ぎている。
出来過ぎていること自体がデザインされている=超常現象ということだということだろうか?
でも、だとしたらウルフがあんなに切れるかなあ?
むしろ変に許された方がよくないか。

外部の者4名と内部の4名を贄にするなら外部の者は別に生かして連れてこなくてもそこら辺の街のやつを失神させて連れてくればいいだろとも思った。
生かして連れてくるところまでがルールなのだろか?

あ、でも子供作らせないといけないのか……。

へレディタリーのときも思ったが最終的にすべては最初からデザインされていたで片付けないと矛盾が出てくる。で、最初からデザインされていたとすると自分もこうなるかも?と感情移入する幅がなくなる。この点がちょっとモヤモヤする。

でも、そのモヤモヤこそ監督が残したい味なのかもしれない。これもまた仕組まれたことなのだろうか?

メイ・クイーンの踊りが脳内をぐるぐる。

Story・情報

主人公ダニー(フローレンス・ピュー)は双極性障害を抱える妹に悩まされていた。彼氏のクリスチャン(ジャック・レイナー)に何度も相談の電話をしてしまうほど参っている。その電話がウザがられていないかと気に病みさらに電話をしたくなってしまう悪循環。そんななか、惨劇は起こってしまう。

そこからしばらくの期間が経過するも、トラウマが解消できないダニー。クリスチャンとその友人と旅に出ることに。クリスチャンは友人マーク(ウィル・ポールター)、ペレ(ヴィルフロム・プロングレン)、ジョシュ(ウィリアム・ジャクソン・ハーパー)らとペレの故郷の村ホルガで開かれる夏至(ミッドサマー)の祝祭に参加することを計画していたのだ。

到着した一行をホルガの人々はカントリーな音楽と真っ白な衣装、自然とともに歩む暮らし、沈まない太陽(白夜)そして異文化で迎えてくれた。

前作『へレディタリー/継承』が「21世紀最高のホラー」と絶賛されたアリ・アスターの長編第2作。明るい惨劇という新奇なコンセプトで日本も含め全世界で反響を呼んでいる。主演は『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』でアカデミー助演女優賞にノミネートされた若干24歳のフローレンス・ピュー。

総括:特にネタバレとかない

特にネタバレとかない映画だと思う。

コンセプトで予想していたものをよりシンプルに提供された感じだ。

有機野菜がおいしいお店といわれて食べに行ったら生野菜のサラダとか野菜スティックとか素材そのままの飯が出てきて「それが確かに素材の味がしっかりしていてうまい」みたいな。

素材の味をここまで引き出したことが手腕であることは間違いない。それは、ポスターのビジュアルとか各種SNSでのスタンスとかも含めて。

こういう明るい狂気みたいなコンセプトってともすればエセ感が出て寒くなってしまう。暗い狂気みたいなのはさすがに恥ずかしいと自覚して逆に「え?全然普通だけど?」というスタンスで奇矯なふるまいをして不思議ちゃんポジションを獲得したいと思っている奴の痛さ。

あれが出てしまいかねないので結構綱渡りの作品作りだと思うのだ。

ただ、作品自体はアリ・アスター自身が真正のおかしなひとなので危なげなく危ない作品となっていた。

安心である。

本作視聴後にYoutubeで彼の短編作品『The Strange Things About The Johnson’s』を視聴した。

父親に執着して性的嫌がらせをし続ける息子」(ネタバレ反転)という発想には度肝を抜かれた。

なんかわからんけどめちゃくちゃ気持ち悪い。

その感覚を長編に何とか持ち込もうと工夫してある程度成功したのがアリアスターの勝因だろう。

ただ、短編の方がより濃くまとまっていて長編作品よりもずっと気に入った。

アート映画としての質は圧倒的に『ミッドサマー』だけど。

良かったところ:工場見学の爽快感

明るい中で惨劇が起こるというコンセプトと期待感の勝利だと思う。

注文通りのものをニーズから外れずよりソリッドに提供してくれた。

この映画を何回も見に行く人がいるというのも何となく理解できる。

ストーリーがあんまりないので世界観に浸りたい人は見るたびにより深く楽しめるのだ。

アリ・アスター自身がジャンルの形式は意識していると発言しているとおり、若者が旅に出て、惨劇が起こり、一人また一人と死んでいくというのは確かにストーリといえなくもない。しかしアリ・アスターはまた「そんなお話の流れは観客全員予想がつくだろうからことさらに取り上げない」という旨の発言をしている。この映画には何一つ予想外の展開が出てこない。そこに現実を裏切るファンタジーの快楽はなく、工場のシステムが手順通りに製品をラインに流していくのを見ているときのような爽快感がある。

シルシルミシルじゃないんだから。

映画の快楽はのぞき見の快楽だといわれる。

しかし、ミッド・サマーにおける我々は惨劇を垣間見るピーピング・トムではなく、神の視点でシステムの進行を見守る工場見学者なのだ。

祝祭自体が新たな世代を生むための儀式だったわけで、ほんとに工場見学だな。

自社工場の製品と他社の部品を組み合わせて新たな時代を作るんだね。

悪かったところ:ホラーとしては不完全燃焼

人体破壊とか、背後からの殺人鬼の登場とか映画の最高潮に怖い部分を射精だとすると、その前の緊張感が亀頭をガンガンいじっている段階だ。

そっちの方が気持ちええやんというのがアリアスターの言い分だと思う。

しかし、各位はご存知のことかと思うが亀頭をガンガンいじって我慢した末の射精って意外と気持ちよくないことが多い。

なんか変なタイミングで出してもうて急な賢者タイムにあせることあせること。

『ミッドサマー』の射精も男の潮吹きには至らんかった。

射精タイミングとしては以下のポイントが挙げられると思う。

・老人が崖から飛び降りて死ぬ一連の流れ

・ジョシュが予言の書を盗みに入って頭を殴られたとこ

・クリスチャンが村娘とセックスし、それをダニーが見つけて嘆くとこ

・クリスチャンがサイモンの死体を鳥小屋で見つけるとこ

・クリスチャンとほかのいけにえの死体が火にくべられるクライマックス

やっぱり一番インパクトがあったのは「クリスチャンが村娘とセックスし、それをダニーが見つけて嘆くとこ」なんだけどここには生(性)が充ち溢れすぎていてホラー的な射精にはミスマッチだと思う。

ここで盛り上がった気持ちを濃密な死で爆発させてほしかった。

しかし、それには「クリスチャンがサイモンの死体を鳥小屋で見つけるとこ」がちょっと弱い気がするのよな。死体の肺がまだピクピク動いてるのは気持ち悪かったけど。ジョシュの足を大根みたいにはやしているとかでなく、4人分の死体をおんなじくらいの画のインパクトで立て続けに見せてほしかった。

【追記】もしくはダニーが女王となって担ぎ上げられるシーン。俺はてっきりダニーも老人たちのように崖から投げ捨てられるのかと思ったよ。そう思わせるのも意図的なミスリードだった気がするけど。でもダニーが解放されるのであれば、崖からの死すらも受け入れて循環の一部となるのが奇麗だった気もするんだよなあ。

「それやっちゃうと普通のホラー映画になっちゃうやんけ」とアリアスターは思ったんだろう。

ドライオーガズムである。

確かにおしゃれなのはそっちだ。

しかし、俺のような若い観客は爆発的な快楽を求めるというのも確かで、それにしては物足りないというのが正直なところだ。

あと、「90年に一回の儀式」なのに「ペレの両親が贄になっている」のは時代設定があわなくないだろうか?ペレの両親が儀式に使われたというのもこちらの憶測にすぎないのであれだし、90年が嘘の可能性もあるけど。

まとめ(93点)

点をつけるような映画ではない。

人によっては100点だし。

だいぶじらされたけどそのじらされた時間はなかなか他の映画では体験できなかったと思う。

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麩が襲ってくるホラーMVをyoutubeにアップしたのでよかったらみてくさい

 

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