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『佐々木、イン、マイマイン』感想──90点 邦画はディティールで語る

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『佐々木、イン、マイマイン』感想──90点 邦画はディティールで語る

元トモ振り返り、27歳うだうだ役者志望主人公青春映画『佐々木、イン、マイマイン』を見た。『百円の恋』とか『万引き家族』とか、見た時と同じ感じの質の高さだった。だから、要するに近年の良質な邦画ってだいたいこんな感じだよねという感じ。生々しさとエモさとちょっとしたラスト付近の飛躍。

煙草を吸って享楽的に生きてたまにけんかして女にはモテそうな主人公(石田:視点人物といったほうが正確?)には全然共感できないので、辛く見たいけど王道のよさみがあるので、切って捨てることはできない、、、

【Story】主人公石田(藤原季節)は「別れた」恋人ユキ(萩原みのり)と同棲中の役者の卵。だが、最近は舞台にも立っておらず、箱を組み立てるバイトに精を出すばかり。ある日、バイト先に高校時代の友人多田(遊屋慎太郎)が偶然訪れ飲みに行った2人は高校時代の友人佐々木(細川岳)の話になる。「佐々木コール」をされるといつでもどこでも全裸になってしまう破天荒な佐々木との思い出を回想する石田。そんなある日、佐々木の番号から電話がかかってきて……。

全体の感想

いい邦画ってこういう感じだよね、という映画だった。役者の演技が引き出せてるなー点が高いというか。これは日本語話者だからなんとなくわかる感じの部分。洋画とか見てて思ったことない。外国人もおやじの死んだときの佐々木みたいに泣くことあるんだろうか?泣き方に国民性はあるのか。

前述の通り、見た人の多くが「まあいい邦画だね」というのではないか。邦画っぽいのだ。

別にいい意味で、というわけではないが悪い意味は一切ない。

要するに「ディティールで語る」のが邦画っぽいのだと俺は思う。

予算が少ない中で、大きな効果を発揮する作品を作るためには「観客の思い出」を利用することが重要になる。佐々木の家の漫画が散らばっている感じとか、サッカー盤とか、パチンコ屋の前の自転車とか……。そういう「あー、なんとなくこういうしみったれた高校生だった気がするぞ」というディティールで語る映画だ。

佐々木は。

泣き方も、いったん飲み込もうとするけど、耐えきれず、口が膨らんで、目がにじんで、声が詰まって……。みたいな、武士の泣き方な感じ? これは泣き女文化圏では全然共感できない部分なのでは?

こういうコンテキスト依存の作品は世界中にあるのだろうが、他国の人には伝わりづらいので俺のところには届いてこないというだけかもしれない。

全体的に東京だなー感が共感を阻害した。バッティングセンターとか、お好み焼き屋とか、青春映画でよく見るけどあんなん近所にないねん。

とはいえ、これは脚本・監督の内田拓也監督(新潟出身)のディティールなので関西出身の俺には違和感ありな部分も随所に。確かに新潟の古町当たりの雰囲気は近いかも知らん。

石田とユキの問題どうでもええ

石田が彼女に未練があってずるずる同棲しているっていうのが、しいて言うなら中心的な問題なんだけど、それはどうでもええねんって思った。それは俺が男女のよくある別れみたいなんを経験したことがないから、といわれたらそれまでだが、そんなもう終わった恋愛よりお前が27歳職歴なし役者の卵という3つ半手詰み状態なのをどうにかせいと思う。
いや、それを吹っ切って最後に舞台に臨むということなんだろうけど、舞台に出ることは前から承諾していたし、後輩とか演出家にも認められてるし、自分から特に企画したわけでもないしなあ…。

ちょろっと出てきた最近ボクシングやってる設定も全然生かされなかった。単なるこいつしょうもないやつなんですよ情報ってこと?

最後の方走って追いついたのはロードワークのたまものなのかな。

人生に迷ってボクシングジムに通いだすっていうのも東京のそれも役者のディティールなのではないか。

かといって最後に大成功をつかんだら一気にやぼな話になるし、難しいけども。

引っ越しのシーンとかでよかったんじゃないの?

あの舞台そんなに重要?

遊屋慎太郎がめちゃくちゃよかった

役者生かし映画である本作、やっぱり企画を持ち込んだ張本人でもあるという細川岳の演技がまず目立つところだけど、俺は多田役の遊屋慎太郎の出っ歯活舌悪☆シュッとしてて要領よい友達演技が素晴らしいと思った。これも俺の知っている人に似たタイプがいるというミームだと思う。

ラストについて

最後は夢っていうかイリュージョンよね? 最後のほうがすごいとは聞いていたけど期待を下回らず良かった。最後に「ええー!」と終らせるのは俺が嫌いな『湯を沸かすほど熱い愛』をなんとなくほうふつとさせたんだけどこちらはあの終わりでベストだと思う。

なんか臭いなと思ったら内田監督はそもそも『湯を沸かすほど熱い愛』の中野量太監督に指示していたらしい。文化服装学院出身でスタイリストを目指していたということで、服とか映画のルックにはこだわりあるタイプなんやろなー。

中野監督はすっかり家族愛映画監督になった。まあ、『浅田家』とかいいのかもしれんけど見る気にならんなあ。家族愛を押し出す映画はなんか嫌な体温の高さを感じて嫌いである。ていうか愛が嫌いじゃ。情しか信じない。

ネタバレると、ラストは

実は生きていた佐々木がお棺から裸で飛び出して、全員で佐々木コール

…というもの(反転で見れる)。

がんとか言ってたし裸でお棺に入れるわけないし、医師が検死してるやろし、絶対夢の部分だけど、まあ、やりたい気持ちは十分にわかるので、イリュージョンということでここはひとつ受け入れてやるか、という

気持ち(反転で見れる)。

細かい文句

木村が美女を射止めたのはなんとなく予想がついたし、ちょっとねえ、逆にがっかりだよ。むしろ眉村さんがそいつならなんかよかったけど、呼び出したときに変な感じになるか。
かといって一切出さんかったら何で木村の恋の話なんかしてんてなるしなあ…。
KingGnu井口は演技も存在感もよかった。でもあのチンピラともめるシーンはいるかね、無理やり作ったんちゃうんかとも。あれで佐々木が撲殺されるんかと思ったもん。

このヘタレ系AV男優のようなたたずまいが良い。

しかし、木村がクラスのマドンナ一ノ瀬を射止めるくだりは別に要らなかった。なんか、なめてたやつが、美女を射止めて「すげえじゃん」みたいな感覚っていやなホモソーシャルじゃない?

あと、クラスで一ノ瀬が特別美人とも思わなかった。むしろ石田と木村の間に座っていたモブ女子の方が俺は……。

内田監督にPV撮影をしてもらった流れで参加したであろう井口はちゃんとかっこ悪い役をやっていて好感が持てた。ただ、ああいうプロレスみたいなターン制の喧嘩はどう考えてもリアルじゃないのでちょっと冷める。

普通、喧嘩中の相手にちょっとボコしたからって背中向けんし。

まとめ

繰り返すが、邦画らしい邦画で、良い映画だった。

ただ、邦画で避けられえない現実に対する解釈違い問題もところどころ俺との間に発生していた。

90点。

 

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