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US(2019)感想 ※ネタバレ 「US(アメリカ人)とは誰だったのか?」

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US(2019)感想 ※ネタバレ 「US(アメリカ人)とは誰だったのか?」

アス

Filmarks(に書いた視聴直後の)感想

日本の奇形系本格ミステリっぽかった。アイディア含めて。その脳で見に行ったら結構落ちまで読めそう。
ただ、アメリカの歴史を寓話的に読み替えてるので「構造だけ取ってオチ読めたわ」とかいったら恥かくんだろうな…。

一見平穏に生きる我々の日常に怖いものが隠れているんだよ、それどころか我々の一部が”こわいもの”なんだよという話。

印象的なテーマ曲は「I Got 5 On It」のバックトラック。LUNIZのデビュー曲で全米大ヒット、公務を欠席したウイリアム王子が合わせて踊っていたなんて話もあるこの曲が不穏に流れる。

お父さんは「ハイになる歌だ!」なんて言ってごまかしていたが、大麻のプッシャーの歌なわけである。

60万人で手をつなごうという1986年のハンズ・アクロス・アメリカは平和の象徴だったが、今作ではその隠された側面が複製として示される。

とりわけ同質性の強い日本において「同じ」ものは「安心するもの」として好まれるが、それが極端な負の要素といて表出することは神戸市の教師いじめ事件など最近の出来事を見ても明らかだろう。

地下住民が主人公を殺せなかった理由が、設定上いつでも後付けはできるものの示されていなかったり、結局主人公にとって家族はどんな扱いになるのか、テザード(映画が終わるまでデザートと勘違いしていた)は結局どうしたいのかがわからなかったりと釈然としない部分はあるが、語りがいのある映画だと思う。

視聴から5日経過し、すでにあの時色々思い描いた感想が薄れてきている。

それに、なんかむりやり社会時評につなげようとしてるきらいがあって恥ずかしいな!

いや、本当は無理やりじゃなく、否応がなしにそういうのが本質的に好きだからなんやけど。

結局数日たっても一番残っているのは曲ですわ。この映画の曲大好き!

といっても「Anthem」と「I Got 5 On It (Tethered Mix…)」だけだけど主に聴いてるのは。

Story

“アデレード”は幼いころ、ビーチでにぎわう遊園地にて鏡の施設に迷い込み、“もう一人の自分”に出会った経験を持つ。しかし、その後の記憶が残っていない。それから時がたち、2人の子供をもうけたアデレードは「そのビーチ」へバカンスに来ていた。しかし、「11:11」「重なり合ったフリスビー」のような奇妙な符号が重なり、悪い予感が浮かんでくる。

――もう帰りたい、と夫ゲイブに漏らしたそのとき戸口に「赤い服を着た家族」が“US”が家に押し入ってきた――。

町山智浩の解説動画

この映画、ちょくちょくある妙に公式サイトの解説系コンテンツが充実してるタイプの映画だ。

解説はいつもの通り町山智浩。「この主人公のお父さんは、いい人の育ちだから「I Got 5 On It」が大麻の歌だってわかんないんですよ」とかちょっと自分の解釈に寄せて登場人物の行動の意味合いをゆがめていないか?というところもあるが、きっちりテザードの格好を身にまとってくるところとか、来場者の質問に答えているところとか、サービス精神旺盛でえらいな、と思う。

ほかの試写会でも本配ったり、人を喜ばせようという気持ちは大きい人だと思うんだよなー。

 

本格ミステリとしてのUS

Filmarks感想に書いた奇形系本格ミステリとは例えば白井智之とか西澤保彦とか今村昌弘とかの作品なのだが、あまりはっきり書くとネタバレの延焼がひどいのであまり書くわけにはいかない。

とはいえテザード(今回のモンスター。地上の人間と全く同じ姿かたちをした人間で地下に閉じ込められ、負の側面を担わされていた)の設定にはかなり無理が多く、本格ミステリ大賞を取ることはかなわないだろう。このミスでちょっと話題になる作品にはなると思うけど。

とはいえ、「説明」を面白い語りにしている小説であればなりたたないSF設定を「イメージ」を伝えることに長けた映画で表現することで、小説では成立しないアイディアを形にしているともいえる。

特にラストの大ネタの部分、小説なら妙に説明的になるか、「記憶喪失」などの無理くり設定が必要になるはず。あ、もしくはレッド側からの視点を交互に織り込むことで叙述トリックにすることも可能かな。そのバージョン、読みて~~。

昨今日本で大流行りのノベライズ商法をUSに適用してもいいんじゃないかと思います。

 

アメリカ人とは誰だったのか?

とはいえジョーダン・ピール監督は物語としての整合性よりも寓話としての意味合いをどれだけエンタメにリンクさせられるかに心血を注いでいる部分がある。

それはまるで、益体もない冗談で社会時評を切るスタンダップコメディアンのようだ。

『アス』を『ジョーカー』と重ね合わせてテザードを貧困層・弱者に重ね合わせる感想を多く見かけたが俺は「ネイティブアメリカン=テザード」なのかなと解釈した。

私たちは、「アメリカ人」だ。

つぶれたヒキガエルのような声の実写化でそう語ったレッド。

アメリカ人、といえば我々はブロンドで鼻の高い白人を思い浮かべるが、彼らはそもそも移民である。

クリストファー・コロンブスが1492年にアメリカ大陸を発見し、「侵略」が始まった。

彼らを理想的な奴隷をみなした移民たちは土地を奪い、家族を引き裂く。

そんななか、1969年に起こったネイティブアメリカン(当時はインディアン)の解放運動が「レッド・パワー運動」なのである。

ニクソン政権の対応により先住民の権利は徐々に認められたものの、いまだに高い貧困率・失業率にあえいでいるという。

元は移民だったアメリカ人が、今度は壁を築いて「移民は入ってくるな!ここは俺たちの土地だ」と主張している。

そのおかしさ(可笑しさ)に、チクリとしたブラックユーモアを武器にするコメディアン出身のジョーダンピールが目を付け、生まれたのが「US」なのではないだろうか?

 

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