映画『X エックス』 未知なるXと保守なるテキサスモンスター
かなり不真面目に作った映画だった。まじめに不真面目。
志は低いが、そこを全うする情熱は感じられる。
ホラー映画のパロディ。
♯全部ネタバレしています
77点
目次
映画『X エックス』 のあらすじとポイント
1.1979年、テキサスの片田舎。ビデオの時代黎明期にポルノビデオ市場に商機があると見抜いたウェイン、その彼女でスターになることを夢見るマキシーン、ブロンドでポリモアリストのボビー=リン、巨根のベトナム帰還兵男優ジャクソン、ポルノを起点に為しあがることを夢見る監督のRJ、RJの彼女で音響担当のロレイン。6名の男女がポルノ映画『農場の娘たち』撮影のために滞在する館には、血塗られた願望を抱く老婆とその夫が住んでいた。
2.『ミッドサマー(感想)』『ムーンライト』『エイスグレード(感想)』……テン年代を代表する安定と信頼の映画配給&製作会社A24製作
3.予告のセールスポイントは「エクストリームライドホラー」。
【考察】未知なるXとは何か?
Xファクターだとか、エクスタシーだとか、X-指定(昔のR指定みたいなもの)だとか、公式から説明されていてそれが正しいのだと思うけど、所見時の感想は『【X染色体】かな』だった。
この映画、男から順に死んでいき、ファイナルガールと殺人鬼を同じ女が演じる。女は老いてなお好色であり、エネルギーを渇望しており、夫は心臓の負担が持たない。交尾の後のカマキリのように哀れに命を落としてしまう。
保安官が地下室を除いて驚愕していたので「X染色体だけが受け継がれる単性生殖の証拠」的なものが見つかるのではないかと予想していたのだが、単にヒッチハイカーの遺体が見つかるだけだった。
その点は残念。
あとは、いちおうジェネレーションXの話でもある。
【考察】キリスト教保守派のメタファーについて
物語の冒頭よりTVから流れるキリスト教保守過激派の演説。最終的に、牧師の娘が主人公マキシーンだということが明かされる。殺戮ババアパールはマキシーンを若かりし頃の自分のようだと期待するが、牛小屋でのポルノ撮影を目にし、失望する。しかしパール自体が若さや満たされた性欲、自由を誰よりも渇望しており、それを持つマキシーンに嫉妬する。
という構造を観ると、やはり最近のトピックとして「中絶禁止法」のメタファーなんじゃないかという考えが頭をもたげる。テキサスの話でもあるし。
アメリカ南部のテキサス州で、原則的に妊娠6週目以降の人工妊娠中絶を禁じる州法が発効し、全世界で波紋を広げている
引用元:「レイプされても堕胎できない」アメリカで奇怪な中絶禁止法が合法になってしまう”やるせない理由”┃President online
貞淑を強いる嫉妬深い老人と、自らの生まれた環境を無理やり飛び出してきた不良娘。
本作で最初に犠牲者となるのは、ロレインに「ナイス・ガール」であることを期待していたRJであり、パールはその喉元を何度も執拗にナイフで切り刻む。
ホラー映画において最初にいちゃついていたカップルが犠牲者となるのは様式美で、たぶんクリエイターのルサンチマンが背景にあったり、低予算映画で客を呼ぶための手段であったのだろうが、やはり奔放な女はファイナルガールになれないという貞淑さを求めるメッセージングになっていたのも事実だ。
『ハッピー・デス・デイ』など近年その法則を逆手にとった作品も多くみられるようになってきたが、そのような古典的ホラーのメッセージングに対する否定が、RJの抹殺にあったのではないか。
【まとめ】それなりホラー。それなりエクスタシー
A24ということで期待し過ぎなければ、まあそれなりに様式美で楽しめる。
3部作を予定しているらしい。正直なところ続編の『パール』にそれほどの興味が持てないのだが、(『メリーポピンズ』風にするという構想にはやや惹かれる)それでも見てしまうんだろうなという予感もしている。
ワニや覗き穴など、「ああ~これで殺されるんやろうな」と予想させておいて、じわじわ焦らしてシーンを克明に見せつけるのは、古典的ながらやっぱりよかった。ただ、鰤谷―がワニに喰われるシーンはかなり安っぽかったなあ。わざとなんだろけど。
こわがらせるときの曲がちょっとダサかった(人間の声で不協和音作ってダブらせるのもういい加減ぐいらない)。
ジャングル系のパッションあふれるツッコミ。
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