『フェアウェル』感想── 92点 ラスト5秒の大衝撃!
全米わずか4館の公開から口コミで話題を呼び、TOP10にまで上り詰めた中国制作・A24配給の中華家族文化の違い提示新鮮映画『フェアウェル』を見た。
farewellとは「お別れ」という意味。
NYで学芸員を目指しながらフリーターの現状に甘んじる30歳の主人公ビリーをオークワ・フィナが演じ、がんで余命3カ月と診断された祖母に真実を伝えるべきか葛藤する。「東洋では命は家族のものだ」という予告編のセリフが印象的。その通り、欧米では常識となっている本人への余命告知を行わない結論をした一家の考えや、中国にある欧米とは違った文化、家族の在り方などをコメディタッチで描く。
目次
全体の感想
安定と信頼のA24クオリティは健在だった。
キュレーションのキモはまず視点とコンセプトへの慧眼だと思うので、そこが、この作品に対してもいかんなく発揮されていたということではないか。
華僑から見た中国とアメリカ文化の差異、そこからみえる死生観・家族観・習俗の違いというのは確かにあんまりこれまでビッグバジェットで取り扱われていた覚えがなくて、それが近年『クレイジー・リッチ』とか本作などで描かれると新鮮である。
しかし、A24配給でオークワ・フィナ主演って、これ全米で4館スタートとはいえ、その後の広がりは約束されていたようなものではないか!という気もする。
そんな大どんでんがえしというよりはある程度約束された成功というか……。
監督のルル・ワンも世界で「2019年に注目すべき監督10人」に選ばれていたらしいしなあ。
とはいえ、日本でKEN WATANABE主演で映画取ったとて糞みたいなやつもあるわけで、やっぱりその成功ルートにしっかり乗っかれたのは制作陣の手腕といわざるを得ない。
『羅小黒戦記』といい、中国エンタメが完全に仕上がってきている。
良い点「東アジア文化を描く」
日本人から見るとまた、これが似ている部分と明らかに違う部分があってそれもまた愉快である。
冠婚葬祭でやたらと張り切るばばあのうざさとか、やっぱり欧米とは違う「家」の一体感・一体であるゆえに軽々に切断処理できずに考え方の違いでちょっともめる感じとか、あるあるである。
その様を見せつけられて、「あーこういう光景ってあんまり欧米の映画では見てこなかったな」とはたと気づく。これはエンタメ市場における中国の存在感がでかくなってきたことの明らかな恩恵である。
やっぱりこういった文化的差異をうまく描いた映画が欧米でもがつんと評価されるのだと思う。『万引き家族』のしみったれた感じとかがやっぱり向こうの人からしたら新鮮なわけでしょう。
『パラサイト』はハイソな家族を描いていたこともあってそこまで感じなかったけど。
そう思うと、この映画は『万引き家族』のような底辺でもなく『クレイジーリッチ』のような上流でもなく、その両者の対比を描いた『パラサイト』ともまた違って、「ごく普通の家族」を描いていることに新鮮さと面白みがあるのかもしれない。
別に金には困っておらず、家族仲だって崩壊しているわけではない。でも軽くギスギスする瞬間はあるし、家族内での”文化的うちとけなさ”もある。
アイコに「もっと顔をくっつけなさいよ」と指図するナイナイがビリーに悪口を漏らすのとか、結婚式のめんどくさ自分ルールを話すとことか、なんというか、あんまりハリウッド映画でこの気安さで見たことはないしだからこそ「ああ、東アジア文化は確かに存在するのだ」と感じる。
とはいえ、墓参りのやり方とか、結婚式のカラオケ三昧とか日本と微妙に違う部分もあり、その文化的観察も面白い。日本人はかなり引っ込み思案に思われてるんだなあ~と感じた。まあそれはアイコ固有の性格でもあるんだろうけど、おばあに何気に悪口を言われていたし、もうちょっとアイコの意志とか活躍も見たかったというのが正直なところではある。
エンディングで竹田の子守歌が「TAKEDA NO KOMURAUTA」と表記されているのを俺は見逃さなかったぞ! ほんでなんでそのチョイスやねん。近年のポップソングを歌わせえ! そのあたりいうても異文化に対してその中でずーっと育ってきた人間が明らかに気づくことに多文化の人間のリサーチでは追いつけない限界を感じる。それともあえてのことだったのかね。シュールな。。
中国の結婚式には高砂がなく、家族みんなで丸テーブルに座って壇上でカラオケを歌いまくるんだなーという面白さがあった。結婚式のカラオケ三昧で言えば韓国映画の『Exit!』でも登場していた。日本の結婚式ではあんな光景はあまり見たことがない。忘年会文化ではあるけど。
あれは大陸内で蔓延ってる習俗なのだろうか。
あと、ナイナイに「メニューにロブスターがないじゃないの!」といわれたコックが「カニと最初から聞いてましたよ!」と突っぱねるのは日本とは違うわなあ。
結末について(ネタバレ)
それにしてもこの映画の結末の切れ味はすさまじい。ただ、それは実際そうだから仕方ないのだけれど。その結末はあっけなくもなぜか爽快でこの映画にぴったりだった。
マジでラスト5秒の衝撃である。余命3カ月と宣告されたばばあナイナイはなんと6年たった今も元気で暮らしているということが実際の映像とともに流されるのだ。
つまり、「Farewell(お別れ)」とはNYに変えるビリーとナイナイの単なる数カ月のお別れであって、今生の別れではなかったのである。
どこで叙述トリックつかっとんねん!
そういうたぐいの映画としてみんなが見ていないので、ピックアップされていないけどなかなかのどんでん返しではないか。
だったのだけれど、結局この映画で取り扱っている”問い”には特に答えが示されず終わったなという感じでもある。
中心にあるのは「己の寿命を知らされるべきか知らざるべきかどちらが幸福か」という医療倫理的な問いなんだけれど、予告で「どうなるんだー」と期待したその問題についてはおもったよりしっかりと扱われず。しかし、結末から逆算すると”知らされない方がよかった”に傾く気がするんだけど。でも、この映画が公開されてるってことはおばあちゃんは結局”知ってる”んだよなあ。そのあたり、結局映画内だけで捕捉しきれない部分があるぞ。
余白にこそ真実あり。かもしれん。
だって知らなかったからこそ寿命が延びた可能性があるからね。
人間、お前は「○○カ月後に死ぬ!」といわれてそれを本当に信じてしまったら死んでしまうのではないか。
良くまとめサイトとかにある「目隠し状態で手首に水をたらし続けて手首を切ったと錯覚させたら本当に死んでしまう」という眉唾物の話の亜種である。
とはいえ、これは『死ぬまでにしたい10のこと』的なテーマとの真っ向からの対立なわけだ。
俺は現状、死ぬとしても知らされない方がいいかなあ。
(とはいえ、作中でも具合が如実に悪くなってきたら知らさざるを得ないという現実は示される)
ジャングル系のパッションあふれるツッコミ。
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