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『私をくいとめて』感想──85点 よかったね吉住

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『私をくいとめて』感想──85点 よかったね吉住

大久明子×綿矢りさ第二弾(第一弾は『勝手にふるえてろ』)映画。

主演はのん。

『勝手にふるえてろ』の主演は松岡茉優。

どちらもざっくり”こじらせ女子コメディ”なわけで、どうしたって重ねてみるし、結局のん演じる黒田 みつ子と松岡茉優演じる江藤 良香のどっちが好きかで評価が分かれる映画だと思う。

(しかし、この名前の違い自体が両者のキャラの違いを象徴しているな……)

いや、もっというとのんと松岡茉優どちらが……(以下同文)。

俺は松岡茉優だった。

勝手にふるえてろ - 作品 - Yahoo!映画

作品としての全体の感想

つまらなくはないのだけれど、『勝手にふるえてろ』の焼き直し感は否めなかった。
綿矢りさ作品をよく読んでいる嫁はんは綿矢りさは結婚してから作品の悪意が薄れてつまらなくなったといっていた。
だから、それが、本作にも反映されているのかもしれない。

そう、期待されてから同じ座組での二作目はつらい。

大体失敗する。これは続編ではないけど、ほとんどそういうスタイルである。

一作目の焼き直しを狙っている時点で一作目を超えられるわけがないのだ。

「おひとりさま」とか「こじらせ女子」とかいう切り取り方がそろそろ古いものになりつつあることも感じた。一般化しすぎてことさらに切り取ったところで新鮮味もないし、一人暮らしの脳内会話も『脳内ポイズンベリー』とかで使われちゃってるし。

もちろん前作と味を変えるための工夫は明らかにあった。

①脳内会話「A」の設定

②のんと橋本愛の「あまちゃん」コンビ再現

③イタリアロケ

それが明らかにある時点で「何とか面白いもの作ろう」という作り手の気概が感じられてえらい。

でも、脳内会話押しの予告編はやっぱりあんまりだったかなあ。

そこからパワーダウンの予感はしていたよねえ。

かといってそれ以上に強調すべきセールスポイントもないわけで。

ちょっと気の毒だったなあ。

脳内の私がSiriみたいなイケボコンシェルジュなのもダサいやろーっと思ってたらそこは終盤にいい意味で裏切られて、いやいや、なめてましたと、なる。

そこはネタバレなのでかかん。

俺は「のん」が嫌い

のんは個人的に創作あーちすととか名乗り出して、うまくもないギターをかき鳴らしている印象から、ちょっとネジ飛んでるコミュ障みたいな悪いイメージを抱いていた。今回の主人公の病態に対してそれはベストマッチで、なるほど理由のあるキャスティングだなあと感じたものである。

そう、俺はちょっとのんが嫌いなのだ。

なんかわかりやすく演技うまいとか頭いいとかなく、あまちゃんというはまり役を手に入れた運と、(あ~確かにこういうの好きなおっさんは一定数存在するぞ)という魅力(しかしそれはかわいい女以外だとキモポイントでしかない)で愛でられている印象だったからだ。

でも、『この世界の片隅に』といい、名前を奪われても確実にサブカル界で存在感を発揮している時点でやっぱ謎の才能があるんじゃろなあ。

のんというより綿矢りさへの文句

しかし、31歳には見えない。ほのぼのムーブで小お局になりかけていて、少し焦りを感じていつつ、おひとり様に安住していて。そもそも、なんであんなに金に不自由していないんだろうか。
都心のきれいなオフィスでありそれなりに大きな会社だとは思うが、お茶くみくらいしか仕事風景のない(おそらく広告業?)会社の社内でしゃべる人が1人しかいない主人公に休日は高級焼き肉をひとりで楽しんで、九条ネギをデパートで買って鴨鍋作って、年末の高騰期に直行便でイタリアにいって、その後帰国してからすぐに沖縄旅行にいくような余裕があるかね?
いや、実家がふといのかもしれないし、これまでにため込んでいたのかもしれないけど。なんかむかついた。

結局生活の資本である金についてどうしているかを克明に描いてくれないとなかなか生身の人間として体重のっけて感情移入はできないんだよなあ。

嫁はんが「綿矢りさは結婚して幸せになってつまらなくなった」と話していたという点に冒頭で触れたが、それがなんとなくわかる描写だった。

いや、結婚する前も貧困描写とかしてなかったと思うけど。

別にこいつ人並み以上に恵まれてない点が全然ないんだよな、と思う。

「そうはいってもセクハラとか周りにおいてかれる感とか“私の地獄”はあるんだよー」というのがこの映画の趣旨なんだろうけど、なんかそれやっぱむかつくな。

「お前の地獄なんか知らねえわ」というスタンスだって別に悪ではないのだ。

そっち側の我々のことを貴様はどう思っているのか。

結局そういう反感がない時点で「優しい世界」だよなーと思う。

主人公が1年以上片思いする取引先社員のただくん(林遣都)は絵にかいたようなかわいらしい、ちょうどいい、都合の良い男で、『勝手に震えてろ』のニが最後に見せたようなこちらのイメージとのギャップ─安全圏に放り込んでいた男の内面─は見せない。
やっぱりそのあたりは前作に比べてむしろ後退したような気がしてしまう。

一年お弁当を交換するだけで、マカロンとかプレゼントしてきて、手を出さないってそれどこの少女漫画?って話である。

そう、綿矢りさは結婚して、しあわせになって、少女漫画みたいなキャラを動かすようになってしまったのだ。

このあたりの「こんな男いねーよ」感は恩田陸を読んだ時にも感じたんだけど、なんかつらい。

話の軸が明確に示されないので、唐突に感じる場面もあった。ジャンプカットが明らかに多用されていたのでその唐突感は狙ったものかもしれないんだけど。突然温泉宿で吉住が泥酔客に絡まれて、若干mee too的なテーマに向かうところとか、キャラにもあっていないしよくわからない。

でも、この吉住が結局the W 2020覇者となるのだから、事実は小説より奇なりとはこのことである。

(まあ、小説では吉住登場してないだろうけど)

ちなみに吉住は初期の代表作である「段ボールでつくった彼氏」のコントをしていた。そのネタを大江戸温泉的なところで披露したところ、エンディングで男性酔っ払い客数人に絡まれ、ベタベタ触られたりサインを書かされたりするのだ、

いや、周りの芸人助けたれよと思うけど、物語の都合からそうはならず、のんは悔しくなって涙を流す。

で、昔軽くセクハラを受けた的な話と、そのセクハラ上司が片桐はいり演じるできる女上司に追い出された話と、その片桐はいりのことをみつ子自身も実は内心よく思っていないことが語られる。

主人公のできる女上司(片桐はいり)に対する引け目が意外と重要なポイントとして後半示されるんだけど、あんなに仕事頑張ってなさそうな主人公に実はそんな引け目がありましたって言われても納得いかないぜ。

結局お局と思っていた女上司には実はパートナーがいたというのがさらっと落ちあたりで示される。

みつ子は仕事ができるわけでもなく、結婚もできず自分は何なんだと引け目を感じていたということなんだと思うけど、正直演じているのがのんなのでピンとこない。

お前は愛されてるししあわせだろ、と思ってしまうからね。

もうちょっと普通っぽい女にやらせた方がここは良かったのではないかと思う。

AVだって昨年からちょっと普通っぽい女がブームである。

でも、それにしてもAの正体そして、手のひら謎顔射シーンは良かったと思う。

そこはネタバレなのでかかん。

 

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